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2005/10/26 掲載 「秋の夜長の読書-知らない世界触れる楽しさ-朝日新聞秋田版朝刊」

 「秋の夜長に読書を」。でも、実際に本を開くのは、いつも午後10時すぎ。読み始めると無意識のまま寝てしまい、目覚めると朝――。そんな日が少なくありません。朝になると自分のふがいなさにため息をつくと同時に、「疲れているときは休養をとらないと」と反省もします。 

 夜に読書ができなくても、毎朝読書のできる環境があります。現在、全国の小中学校、高校で行われている「朝の読書」。秋田西中では、毎朝午前8時20分〜40分までの20分間が充てられています。生徒も教師も好きな本を読んでいます。 

 最近、僕が印象に残っている本は、『ヤンボコ』(義家弘介著)や『夜回り先生の卒業証書』(水谷修著)、特に『世にも美しい数学入門』(藤原正彦・小川広子共著)には、はまりました。朝からとてもぜいたくな時間を過ごして、1日が始まります。 

 僕が中学生のとき、同じ時間帯は自習でした。国語など各教科の学習プリントを繰り返しやっていました。だんだん飽きてきて級友とおしゃべり。先生に注意されることも。当時と比べると、今の生徒をうらやましく思うときがあります。僕は、中学生になるまでほとんど本を読んだことがありませんでした。活字を読むと、すぐに飽きてしまいました。だから、夏休みや冬休みの読書感想文は、原稿用紙を埋めることに苦労しました。 

そんな僕が秋田南高に入学後、文芸部に入りました。年に1度の文化祭の時に、部誌「岬」を発行。僕は、将来の漠然とした不安や障害への悩み、葛藤などを詩や小説につづりました。部員やクラスの友人らからは、予想以上の反響でした。「三戸の気持ちが伝わってきたよ」「今度の学級対抗の球技大会、一緒にがんばろう」。作品にみんなが共感してくれたのです。それまでは、「みんなと一緒に生きたい」という気持ちを会話で伝えてきた僕にとって、文章で表現しても伝わることに衝撃を受けました。 

 大学生になり、障害者の書いた本を読むようになりました。特に、小山内美智子さんや牧口一二さんの作品です。小山内さんからは、障害者としてありのままの姿で生きていく力強さを、牧口さんからは、障害者自身の視点で物事をとらえていく大切さを学びました。 

 大学卒業後、教師になる夢に挑戦していたときは、教員採用試験の受験勉強の合間に、生き方に関する本をよく読みました。読書を楽しむより、孤独な気持ちを癒やしたいために。「公立中学校の教師になりたい」。そんな自分の信念を、本があらためて意識させてくれました。 

 生徒たちにも、たくさんの本を読んでほしい。読書は、自分が知らなかった世界をかいま見ることができます。ものの見方や感じ方を知り、物事を幅広い視点で考えることもできます。多くの生き方に触れることで、自分を見つめることができます。 

 「三戸先生の本を読んだよ」。時々生徒が話しかけてきます。僕のことを書いた『がんばれ!ガクちゃん先生』(関原美和子著)のことです。「先生の生き方が伝わってきました」と生徒。思わず笑みがこぼれます。 

本の内容について質問を受けることもあります。「友だちと一緒に遊びたくても仲間に入れてもらえなかったり、体育の時間に見学を勧められたりしたとき、どんな気持ちでしたか?」。僕は、笑顔で答えます。「君が僕の立場なら、どうするの。君が僕の友だちだったら、どうするの」と。



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