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2005/05/25 掲載 「小学校の運動会−徒競走から始まった今の僕−朝日新聞秋田版朝刊」

 21日の土曜、雲一つない五月晴れでした。男子卓球部の練習の合間に、ある生徒が「今日、(弟の)日新小学校の運動会だよ。部活動が終わったら、見に行くんだ」と言います。 

 これを聞いて、僕も運動会に行きたくなりました。正午に練習が終わると、自宅で昼食をとり、電動車いすで向かいました。 

 秋田市立日新小学校は僕の母校です。日新小に行くことは、卒業以来。向かいながら、ワクワクした気分になりました。途中、友だちとランドセルを背負って歩いていた記憶がよみがえりました。 

 日新小の校門前には坂があります。その坂を上っていくと、少しずつ校舎とグラウンドが見えてきました。校門脇には、ババヘラアイスを売っているおばちゃん。校門を過ぎると、万国旗が飾ってありました。 

 当時のままのグラウンド。懐かしさのあまり、気ままに電動車いすでぶらついていると、ある生徒の保護者が声をかけてくれました。「先生、見に来たんですか」。午前の部が終わり、時々風が吹いては土煙が起こるグラウンドを見ていて、小学1年生の時の運動会を思い出しました。 

 ――80メートル競走。「順位を気にしているかもしれないけど、最後まで走ることが大切なのよ」。担任の先生が不安な表情の僕に声をかけてくれました。徒競走でビリはその時に始まったことではなく、ビリでもいいから走りたいと思っていました。けれど、初めて全校児童や保護者の前で走るため、言いようのない不安に駆られていました。 

 いよいよ、出番。6人がスタートラインに並ぶ。 

 「イチについて、ヨーイ、ドン」。走れば走るほど、差は広がっていく。僕が20メートルを走ったところでほかの5人はゴール。残り60メートルは孤独な闘い。一心に走っていると、「ガンバレ、ガンバレ」という声援が聞こえてきました。 

 見物しているお父さん、お母さん、児童からガンバレコール。うれしい半面、恥ずかしく、照れくさい……そんな複雑な気持ちになりました。走る前に感じていた不安はどこかに消えていました。無我夢中で先生たちが再び張ったゴールテープを切りました。 

 担任の先生が僕に近寄り、力いっぱい抱きしめてくれました。僕は担任の先生に引かれて、堂々と自分の順位の旗に並びました。ビリが一番輝いていました――。 

 そんなことを思い出し、「このグラウンドから、今の僕が始まったのかな……」とグラウンドを見ていました。周りを見渡すと、30人以上の西中の生徒が運動会を見に来ていました。 

 生徒が見やすい場所まで案内してくれました。途中の段差は、数人の生徒が電動車いすを持ち上げてくれました。ある保護者は坂がある小学校までの道のりを気遣ってくれました。 

 午後の部は、応援合戦とリレー競技でした。自分の住む地域で開かれた母校の運動会。電動車いすに乗りながら、後輩の活躍に胸を躍らせました。



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