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2005/03/23 掲載 「年度末に思うこと−社会変える力生徒に期待−朝日新聞秋田版朝刊」

まもなく、今年度が終わります。新年度の新しい出会いに期待を抱きながら、今年度を振り返っています。「1年間、かかわった生徒に僕が伝えたいことを伝えられたのだろうか」と内省しています。 

 「初心忘るべからず」という言葉があります。「物事を始めたときの真剣な気持ちをいつまでも持ち続けること」という教えです。現在、教師生活4年。来月から5年目です。教師生活に惰性が生まれていないのかと自分を見つめ直す言葉だと思っています。 

 教師を目指していた頃の文章を読み返しました。 

 「学校は社会の縮図であり、いろいろな人間がいてもよい。障害者の僕が中学生とかかわることで、自然な形で共に生きる力が身に付き、生徒一人ひとりの人権感覚を豊かにしていきたい」。これは僕が教師を目指した動機でもあります。 

 僕と生徒、生徒と生徒の学校生活の積み重ねが「共に生きる力」や「豊かな人権感覚」を育んでいくと信じています。 

 今年度の学校生活で、二つの場面が特に印象に残っています。一つは、1年生の数学の授業でした。学習内容は「比例のグラフ」。比例のグラフは、原点を通る直線になります。一般の数学教師なら定規でキレイな直線を引いて「これが比例のグラフです」と説明すると思います。 

 僕は定規で直線を引くことが難しいので、「フリーハンドで直線を引きます」と言い、線を引きました。そのとき、1人の生徒が「結構、うまいじゃん」と言いました。思わず「ありがとう」と言うと、教室に笑いが起こりました。 

 もう一つは3階から2階の体育館まで室内用の電動車いすを運んでくれた2人の1年生男子生徒のことです。体育館での整列指導や立ち上がりにサポートが必要なため、体育館でも電動車いすを使っています。 

 室内用の電動車いすは約16キロの重さがあります。体育館で集会があるたびに、2人の生徒が階段を持ち上げて運んでくれました。バッテリーを取り、車いすを折り畳み2階へ運びます。そして、今度は僕に肩を貸して、2階へ行きます。 

 僕のサポートのため、2人は集会に遅れることになります。あるとき、「恥ずかしくない?」と聞くと、「そんなの全然だよ。慣れました」と言いました。 

 2人の男子生徒が僕の教師生活を支えていました。他の先生方は体育館の整列指導をするので、ほとんどこの2人がサポートしてくれました。自ら進んでサポートしてくれた生徒です。 

 今年度の1番の思い出は、同僚のI先生と一緒に創立40周年記念ソング「風になれ」を作り、歌ったことです。3月9日、生徒会主催の「3年生を送る会」でも歌いました。1年前には、オリジナルソングをステージで歌う姿なんて想像もしていませんでした。「生きることは面白い」と実感しています。文化祭、40周年式典、送る会と3回もステージで歌うと、歌うことにも慣れました。 

 僕が人前で歌うことの教育効果は、「言語障害があっても、歌うことが好きなんだ」ということを伝えられることです。ときどき、初対面の人は僕をカラオケに誘うことをためらいます。言語障害がある僕を誘うことは失礼だと思っているらしいのです。僕の歌を聞いた生徒は、きっと人を外見で判断しないだろうと信じています。 

 今年度の最後の授業で、「君たちは僕の教え子」というメッセージを伝えました。「まだまだ、障害者が本当に教師できるの? 数学を教えることができるの? 健常者の教員の方がいいのでは……という声があります。障害者というイメージだけで僕をとらえることが悔しい。君たちは、僕の授業を受けて、率直な感想……この社会を変えていく大きな力になってほしい」と語りました。僕にとって、君たち一人ひとりはかけがえのない存在だと伝えたかったのです。



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