■障害者から見た障害者ボランティア 第2回山形県障害者福祉ボランティア団体活動合同発表会 平成8年11月2日 場所 天童市総合福祉センター
日 程
12:00 受付開始 13:00 開 会 主催者挨拶 社会福祉法人 山形県身体障害者福祉協会会長 成田成治 来賓 挨拶 山形県健康福祉部障害福祉課長 13:15 ボランティア団体活動発表 (1) 東根工業高等学校JRC 太田 明美・小山田 奈々 (2) 山形県手話サークル連絡協議会事務局長 佐藤 浩子 (3) 要約筆記「麦の会」事務局長 青木 みどり (4) 東海大学山形高等学校JRC部長 門脇 憲一 (5) りんりん車いすダンスクラブ会長 末廣 かなえ (6) 「いっちゃん会」代表 土田 ヨウ子 (7) 山形大学サークル「障害と共に歩む会」代表 三戸 学 (8) なかまっこ劇団代表 東海林 由一 14:45 講評及び県内ボランティア活動の現状について 山形県健康福祉部医務福祉課 田中義秀山形県ボランティア推進専門員 15:15 閉会のことば 山形県身体障害者福祉協会常務理事 15:30 閉会
山形大学サークル「障害と共に歩む会」代表
三戸 学
近年、これからの時代を反映してか「ボランティア」という言葉が声高に叫ばれているような気がします。そして、ようやく「ボランティア」という言葉が我々にとって、身近な言葉になってきました。「ボランティア」この言葉から僕は、未来を生き抜くための力強いエネルギーを感じます。時代の要請から、これから先「ボランティア活動」は活発な活動になっていくと思われます。そこで、山形大学サークル「障害と共に歩む会」の成立過程、活動内容、活動方針を述べていく中で、題に掲げた「障害者ボランティア」について、私見を述べていきたいと思います。また、障害者と聞けば、ボランティアの対象として見られがちですが、一人の障害者として僕は、障害者がする「障害者ボランティア」の可能性について、自分の体験を交えながら、話をしていきたいと思います。
初めに、「障害と共に歩む会」というサークル名のことについて話をします。この「障害」という言葉に、僕たちは二通りの意味を持たせています。一つは障害者の障害を持っているがゆえに生じる障害です。そして、もう一つは健常者が障害者と接するときに生じる障害です。前者は主に社会的不利(handicap)のことを指し、後者は障害者と健常者の意識のギャップのことを指します。次に「共に歩む」についてですが、これには、障害者も健常者も一緒に生きていこうよ、先に挙げた二つの障害にそれぞれの立場から克服していこうよ、という願いが込められています。このサークル名はメンバー全員で考えました。
次に、このサークルの成立過程について話をします。この「障害と共に歩む会」は僕の悔しさを大学の友達に打ち明けることから、始まりました。僕は山形大学教育学部の学生で、将来教師になろうと思っています。だから、一度でいいから子どもに勉強を教えてみたいと思い、家庭教師をやってみようと思いました。去年の十月頃、山形市内にある全ての斡旋所に行きましたが、障害があるという理由で断られました。僕の予想もしなかった返事が返ってきたので、かなりのショックを受けました。その時の僕は、やり場のない悔しさにどうしようもできないでいました。(どうして、障害があるために断られなければならないのか、僕はみんなと同じ大学生なんだ)と叫びたくなりました。自分でもいろいろなことを試みてみました。断られた斡旋所にもう一回、今度は友達を連れて行ったり、大学の友達の友達の友達にまで声をかけ、家庭教師先を僕に譲って欲しいと言ったりしました。しかし、いずれも良い返事はきませんでした。(やっぱり、障害のある人が家庭教師をするなど無理なのかなぁと)と思い、何度も諦めようとしました。
でも、諦め切れず、とにかく、僕は大学の友達に自分の悔しさを分かってもらおうとしました。そこで、僕は大学の友達に呼びかけて「差別」について、話し合いました。第一回目は僕があまりにも主観的になり過ぎてしまって、物別れに終わってしまいました。次の週も集まって話し合うことにしましたが、何しろ、一回目が物別れに終わってしまったので、次からは誰も来ないのではないかと心配しました。しかし、以外にも「みんなの前で意見を言えて良かった」「お前の力になりたい」と言ってくれた人がいて、勇気付けられました。二回目からは、健常者と障害者にある意識のギャップを埋めるための話し合いではなかったと思います。友達から「君が家庭教師をできないのは障害者差別ではなくて、単に適性がないだけだ」「君の問題は、個人の問題ではないか」などと言われた時、僕は激しく動揺したことを覚えています。僕が真剣に話せば話すほど、友達も真剣になって答えてくれました。僕にとって辛い言葉を言われた時もありましたが、それだけ僕のことを考えてくれるのだなぁと思い、逆に嬉しかったです。
話し合いを重ねるにつれて、「僕の問題は個人の問題ではなく、障害者一般の問題ではないか」という認識がだんだんと友達に芽生えてきました。そして、「僕が抱えている問題は一つの社会問題だ」ということでみんなの認識が一致しました。今度は、僕の家庭教師先を見つけるための方法について、話し合いました。いろいろな案がでましたが、とりあえずビラを作って、配ってみようということになりました。恥ずかしい話ですが、サークルとして大学に届け出れば、幾らかの予算が付くということなので、活動資金を得るために大学にサークルとして登録しました。これが、この「障害と共に歩む会」です。一つのサークルとして活動していくためには、当然、サークルの目的が大切になってきます。このサークルの目的は障害者の社会参加を積極的にバックアップしていき、且つ、より多くの人に障害者問題を考えてもらうための契機を作っていくことに決めました。これまでの話し合いの経過からサークルの目的を決めることは簡単なことでした。
サークルとしての当面の活動はこのサークルの代表でもあり、障害者でもある僕の家庭教師先を見つけることでした。「家庭教師やります」と書いたビラを作って、それを街頭で配りました。主に、七日町通りで人通りの多い夕方の5時頃から、ビラを配りました。これを毎週月曜日に行いました。また、近くのスーパーマーケットや郵便局、市役所、社会福祉協議会などにビラを掲示してもらうように頼みに回ったりもしました。僕は別にお金が欲しかったわけではありません。ただ、家庭教師を通して子どもに勉強を教えてみたかったのです。それに生身の子どもと接することで自分自身いろいろと勉強になるのではないかと思い、家庭教師をやってみようと思いました。僕はこの気持ちを「時給…無料でやります」と書いて、マーカーペンで一際目立つようにしました。この思いが通じたのでしょうか、見事、僕は家庭教師をすることができました。今年の五月に呼びかけて、わずか二ヶ月で成果をあげることができました。僕自身、こんなに早く家庭教師をできるようになるとは夢にも思いませんでした。
今、この活動を振り返ってみて、友達に自分の気持ちを分かってもらうまでが一番難儀したなぁと思います。呼びかけて、集まってくれた友達にはっきりとものを言われた時は、自分自身、本当に辛かったです。でも、きっと、僕の気持ちを分かってくれると信じて、僕は悔しさを訴えてきました。それがこのような成果につながったと思っています。しばしば、障害者ボランティアについて論じられる時、「健常者が障害者の気持ちを理解するように」と言われますが、僕は逆に「障害者も健常者の気持ちを理解するように」しなければならないと思います。このことは話し合いを重ねる中で、痛烈に感じました。お互いに話し合って、お互いのことを分かち合ってこそ、本当の意味でお互いに歩み寄ることができるのだと思います。
これからの「障害と共に歩む会」の活動予定は、大きくいって二つあります。一つは、もっと多くの人たちに障害者が抱えている問題を知ってほしいと思っています。これはメンバー全員の願いです。障害者の置かれている立場、障害者の悩み、それらを聞いて、あなたはどう思いますかと問いかけていきたい。この問いかけに心を動かされる人は、きっといると思います。僕たち「障害と共に歩む会」はこのような人たちを取り込んでいきたいと考えています。もう一つは、障害者の社会参加を積極的にバックアップしていくことです。具体的には、一人の障害者が抱えている問題をサークルのメンバー全員で考えていき、そして、メンバー全員でその問題解決に取り組んでいきます。このような活動をこれから、やっていこうと考えています。いろいろな活動をやっていくなかで、やはり基本となるのは「共に歩む」ことだと思います。これは簡単なように見えて、実はかなり難しいことです。「障害と共に歩む会」では「共に歩む」ことを大切にしていきたいと思っています。また、「障害と共に歩む会」の代表として、サークルの雰囲気は楽しいものにしていきたいなぁと思っています。
僕は大学に入学してから、ボランティア活動を始めました。ボランティア活動をしていて、多くの人たちと交流できることが一番の楽しみです。僕でも力になってあげられることがあると思うと、自信が湧いてきます。僕はボランティアの「一人ひとりを大切にしていく」という考えが好きです。障害を持っている人が楽しんでいる様子を見ると、自分までも楽しくなります。僕は一人の人間として、障害を持っている人と話したり、一緒に行動したりすることが好きです。僕はこのような価値観を多くの人たちに広めていきたい。それは、自分をどんどんと出していって、良き理解者を増やしていくことではないかと思っています。僕はいろいろな人に声を掛け、実際に付き合う中で障害者への偏見をなくしていきたい。これが僕のできる最大のボランティア活動だと思います。自分を出していくことは、とても勇気のいることです。しかし、自分を出したことで、僕は掛け替えのない友達を得ることができました。これから先、僕はボランティア活動を生活の糧として、ボランティア活動と共に歩んでいきたいと思っています。 |
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