>> 前のページへ戻る


2005/01/12 掲載 「教え子の来訪-生活の工夫、「生きた教材」に-朝日新聞秋田版朝刊」

時々生徒が自宅へ遊びに来ます。昨年4月から今まで、何人が遊びにきただろうか。たぶん、30人以上は遊びにきただろう。 

 昨年の5月中旬。ある生徒が「今度の日曜日に、先生のアパートに遊びに行くよ。何時ごろがいいの?」と聞いてきました。「午後がいいよ」と答えました。「みんなで、午後2時ごろに先生のうちに行くからね」と生徒。いったい何人が来るのか分からないでいました。 

 約束の時間まで、雑誌や本の整理整頓をしたり、食器を洗ったり、部屋の掃除をしたりしていました。午後2時ごろ、数台の自転車が止まる音。間もなく「ピンポ〜ン」とチャイムが鳴りました。ゆっくりとドアを開けると、「こんにちは」と生徒の顔が飛び出しました。その数なんと11人。狭い玄関は、靴で埋まりました。 

 「場所を教えてなかったから迷うかと心配したよ」と言うと、「アパートの前に先生の電動車いすを見つけて、先生の家かなあと。やっぱり当たっていたね」と、生徒がニコニコして答えました。 

 その日は、生徒と話をしたり、インターネットやトランプをしたりして遊び、午後4時ごろ、全員が帰りました。 

 それ以来、生徒が遊びに来ます。「アパートの入り口にあるスロープは、歩きやすくするために付けたの?」「玄関に手すりをつけて、部屋に入りやすくしているの?」「風呂場になぜ板を敷いているの?」「最近、ベッドを買ったの?」と、いろいろと疑問をぶつけてきます。 

 「スロープや手すりは、大家さんの許可を得て、僕が付けた。もし、許可がなければ、このアパートに住むことができなかった。だから、大家さんに感謝しているよ」「風呂場に、高さ10センチのスノコを敷くことで、浴槽に入りやすくなるのだ」「リハビリのお医者さんが『布団よりもベッドの方が体にいい』とアドバイスをくれたので、ベッドにしたんだ」などと答えると、どの生徒も「先生が生活しやすいように工夫をしているね」と納得します。 

 初めて、僕の部屋に遊びに来た生徒は、自分の部屋にないものに興味を持つようです。生徒とたわいのない話をしたり、音楽を聴いたり。時々、数学のテキストを持参して質問する生徒もいますが……。 

 母は「生徒に好かれているようだね。嫌いな人の家に遊びに行きたいと思わないでしょう。私が中学生のとき、先生の家に遊びに行ったことを今でも覚えているわ。あなたは生徒にとって『生きた教材』なんだから」と言います。 

 教師の自宅に、生徒が遊びにいくことに異論のある方もいると思いますが、僕が生徒なら、先生の家に遊びにいきたいと思います。 

 遊びにきた生徒に、「記録ノート」にコメントを書いてもらっています。「記録ノート」に、たくさんのコメントを書いてくれるかどうかは、学校での生徒とのかかわり方次第です。『生きた教材』とは何だろうと自問自答しつつ生徒と接しています。 

 なお、女子生徒が遊びにくるときは「決して1人で来ないよう、友だちと一緒に来るように」と言っています。昨今の社会情勢から、誤解を招く恐れがあるからです。これも一つの教育と勝手に思っています。



[前のページ] [ガクちゃん先生の学校通信] [次のページ]

このサイトの写真・文章などは、手段や形戴を問わず複製・転載することを禁じます。